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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(オ)168号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岩沢誠の上告理由第一点について。

原審の認定するところによれば、被上告人は北海道知事に対し本件賃貸借の解約につき農地調整法九条三項による許可を申請し、昭和二三年二月二七日附同知事の許可指令書を受取つたのであるが、これよりさき北海道庁においては右申請を許可し難いことに審議がまとまつたにもかかわらず、知事の決裁を求めるいわゆる原議の指令案の「本申請許可する」との文句を抹消しないまま知事の決裁を受けたので、これに基づいて「右申請許可する」との知事名義の指令書が作成され、これを被上告人が受領したものであるというのである。論旨は、この場合被上告人の申請を許可するという北海道知事の法律的効果意思は存在しないのであるから、許可の行政行為は存在せず、要式的行政行為でない本件においては指令書の交付は単に行政処分の行われた事実を通知するところのいわゆる事実行為に過ぎないものであると主張する。しかし行政行為は表示行為によつて成立するものであつて、行政機関の内部で確定したものであつても外部に表示しない間は意思表示ではあり得ない。そうして当該行政行為が要式行為であると否とを問わず書面によつて表示されたときは書面の作成によつて行政行為は成立し、その書面の到達によつて行政行為の効力を生ずるものである。この場合表示行為が当該行政機関の内部的意思決定と相違していても表示行為が正当の権限ある者によつてなされたものである限り、(この事実は原審の認定したところである)該書面に表示されているとおりの行政行為があつたものと認めなければならない。そうだとすれば、原判決が右指令書の表示に従つて本件賃貸借解約の申請を許可するという行政行為があつたものと判示したのは正当であつて、これを許可しないという意思は未だ外部に表示されていないにもかかわらず、不許可の行政処分があつたと主張し、又は許可の処分がなかつたと主張する論旨は理由がない。

同第二点について。

本件賃貸借解約の申請を許可する行政処分は当初から存在しなかつたのだという上告人側の主張に対して、原審は許可の行政処分があつたものと判断して、これを排斥していること、上に述べたところによつて明らかである。そうだとすれば原判決中のその余の説示は無用の蛇足を加えたものに過ぎないのであるから、それが上告人の主張しない事項について判示したものであつたにしても、原判決の結論に何等の影響をも及ぼすものでない。それ故論旨は採用に値しない。

以上の理由によつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見を以て、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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